「さ、さすが有名アーティストの家……」

「ま、気楽にしてくれよ」

 そう言われても肩身が狭いものは狭い。

 手入れの行き届いた庭を抜け、玄関のドアを開ける沢里にぴったりとくっついて靴を脱ぎ、案内されるがままに家の奥へ奥へと通される。

「おじゃまします」

 美しい絵画やセンスのいいドライフラワーが飾ってある廊下をびくびく歩いていると、沢里がくつくつと笑い出す。

「笑わないでよ」

「悪い、なんか借りてきた猫って感じでつい」

 むむっと口を引き結んで遺憾の意を表すが、まだ沢里は笑い続ける。

 自分はゴールデンレトリバーのくせに。と言いたいがビビっているのは事実なので黙っておく。

 長い廊下の突き当たり。重たい扉を開けたその先の光景を見て私は言葉を失った。

「こ、ここって……」

 音響設備の整った部屋の中央に透明なしきりがなされ、その奥にはマイクと楽器が並んでいる。

 そう、立派な音楽スタジオが目の前に広がっていた。