君の隣で歌いたい。



「そ、それが分からないならもう動画に出さないから!」

 分かってもらえないのならもはや最終手段である。

 新曲が上手くいったことは確かに沢里の力を借りたからで、もちろん感謝している。

 これは心にもないただの脅かしだ。文脈から私の嫌がり具合が伝わればいいと思っての言葉でしかない。

 これで少しは私の言うことに耳を傾けてくれるだろうと思っていた。

 その大きく見開かれた両目から、ぼろりと涙が零れ落ちるまでは。

「え!?!?!?」

 今度は私の目玉が飛び出る番だった。驚きすぎて声も出ない。

 あの沢里が泣いている。

 本人もなにが起こったか分からないような表情で、自分の目から流れる涙を不思議そうに指で拭っていた。

「さささ、沢里!?!?!?」

「あー……悪ぃ」

 思考回路が壊れてしまったかのようになにも言葉が浮かんでこない。

 ただ沢里がぐっと上を向くのを見守るしかできなかった。

 一拍後、微かな声がその場にぽつりと落ちる。

「やっぱり俺じゃあだめなのか」

「あ、い、いや、ちがくて、その……ご、ごめ」

 ぽすりと音を立てて、ゴミ袋が集積所に投げ入れられる。

 とんでもないことをしてしまった。

 沢里が「悪かった」と言って素早く静かにその場を去るのを、罪悪感で震える私の足は追いかけることができなかった。