一人抜けただけに見えても、その穴は巨大だ。三年かけて磨き上げたメンバーの声のバランスは、あっという間に崩れてしまった。
毎日毎日厳しい顧問に怒られ、部員たちは疲弊していた。
さらに悪いことに、部長だった彼と副部長の私は全国大会でソロパートを歌う予定だった。
それも急な代理を立てることとなり、担当することになった二年生は急なパート変更と顧問の厳しい指導に今さらできないと涙を流していた。
恋愛沙汰はあっという間に噂になる。部内では私が彼を手酷く振ったから部を辞めたのだとまことしやかに囁かれた。
そうして次第に部員たちの私に対する視線が、悪意を持つようになった。
歌っても歌っても声がひとつにならない。ソロパートを歌うと冷たい視線が突き刺さる。
部を混乱に陥れた原因とされた私は、受け入れられない異物と化してしまったのだった。
そして迎えた全国大会。
私はソロパートで息もれを起こし、途中で歌えなくなった。
ステージを降りるや否や酸欠で救護室に担ぎ込まれ、それからのことはよく覚えていない。
ただひとつ強烈に残っているのは、部員たちの責め立てるような視線だけだった――。
賞を逃した代償は、息もれという形で私の中に残った。
責任を取るつもりで、私は部を辞めた。もう二度と、他人と声を合わせないと誓って。
