君の隣で歌いたい。



 単なるひとり言だと言い訳もできない。

 私は今まさしく自分の意思で提案したのだ。作り手としての欲を自制できずに。

 ぎゅっと眉間を揉む。柾輝くんにコーラスを頼んでいた時はなんの疑いもなく送られてくる音源を使わせてもらっていた。

 互いに声をよく知っていたというのもあるが、沢里の声だってもう把握はしているはずだ。

 なぜこんなにも気持ちが(はや)るのか。自分自身のことが分からなくなってしまう。

 沢里の歌と勢いに引きずられている。そうとしか思えなかった。

 機嫌よくハミングする沢里を盗み見て、覚悟を決める。最悪なにかあっても、ここは自分の部屋だ。

「……じゃあ、やろうか」

 私はゆっくり細く息を吐き、鍵盤に指を乗せた。