美魔男の完璧な仕事に心が溺れる



「何で涙がでるかな~
 俺、そんな泣くような事言ったっけ?」

 翔はやっぱりずるい。こんなに切ない空気が漂う時間でさえ、いつもの優しい笑顔で沙羅を包み込む。翔の本心が分からない。
 何でもないふりをしているのか、本当に何でもないのか…
 翔はティッシュケースを持ってきて、沙羅の涙を優しく拭いた。そして、もう一度抱きしめる。さっきよりも強い力で。
 でも、キスはしない。
 ただ抱きしめるだけ… 

「ほら、もう寝なきゃ…」

 沙羅はそんな翔の首元に抱きついた。翔がキスをしてくれる事を密かに待っている。沙羅と翔の距離はキスをするには十分過ぎるほど近かった。
 そんな沙羅を翔はそっと抱きしめて、そして小さく息を吐く。

「沙羅、もう寝た方がいいよ…」

 沙羅はそんな風に同じ事を繰り返す翔を優しく見つめた。

「うん、分かった…」

 お酒のせいで自分自身を見失っていた、そういう事にしておこう。
 翔は仕事でここにいる… 
 それ以上の事を期待しちゃいけない。
 沙羅はそう心に言い聞かせ、翔の温かい腕の中からするりと抜け出す。

「翔、ごめんね」

 そう一言残して、シャワー室へと入って行った。