運転席に座る翔にウィルがそう聞いてきた。そういう事で揉めていたのか…
「翔の隣は沙羅しかダメなの!
だって二人は偽物の恋人同士なんだから」
ミナはやたらと偽物を強調してくる。翔はその度に心が萎えた。
「沙羅は? どうなの?」
こんな時の沙羅ってかなりの優柔不断だ。本当に悩んでいて、顔をしかめたまま遠くを見ている。その後ろ姿は“お願い、翔が決めて”と訴えていた。
ウィルも全く引く様子がない。翔はどういうわけかゲイの男性によくモテる。そういうオーラを醸し出しているのか? それはある意味、面倒くさい悩みの種だった。
「ウィル、ごめん。俺の隣は沙羅って決めてるんだ。
こう見えて、一応、沙羅を守るボディガードだから」
「沙羅を守りたいのなら、助手席は危険だよ。
普通は後ろの席に座らせる」
翔はそう正論を言われて、何も言い返せなくなる。
「でも、沙羅は俺の恋人でもある。
恋人のふりをしたボディガード。恋人なら後ろの席はあり得ないでしょ?
それにこの車は、警護に関してはフル装備だから、車に乗っていれば安全安心は保障できる。
沙羅だけじゃなく、皆もね」



