「沙羅」
翔の前を歩く沙羅をそう呼び止める。沙羅が振り返った時、翔はさりげなく沙羅の手を握った。
「ほら、俺達、恋人同士だから…」
翔はそう言いながら、沙羅を引き寄せる。首元が真っ赤になっている沙羅が愛おしくてたまらない。
店の外に出ると、豪華なロールスロイスが停まっていた。確かに、これじゃ大き過ぎて長くは停めれない。翔は迎えに来た支配人を見て、軽く目配せをした。支配人は仲良く手を繋ぐ二人に顔をしかめている。
「お嬢様、お先にどうぞ」
沙羅は目立ってしょうがないロールスロイスに普通に乗り込んだ。まるで、それが日常のように。
そんな沙羅の姿を見て、翔は沙羅が珍しいタイプの究極のお嬢さまだということを再確認する。そのギャップは翔にとってはかなり刺激的だった。
「細谷様の事、信頼はしてますけれど、念には念を入れて警護してください。
何かあったら、私達スタッフ全員の首が飛んでしまうので」
翔はそんな心配をしている支配人に「分かりました」と呟いた。
必要以上にあれこれ言わないのが、翔のやり方だ。完璧な仕事をするだけの話だから。



