それから、何となくスマホを翔の方へ向け、さりげなく近づける。沙羅からの角度では、翔がどういう状態で映っているのかさっぱり分からない。でも、気付かれないように慎重にスマホを動かしていた。
すると、急に、信号待ちで車が停まった。翔は沙羅を見て、意地悪そうに微笑んだ。そして、沙羅からスマホを取り上げる。
「沙羅のお母さんですか?
初めまして、細谷翔といいます。今回、沙羅さんの偽物の恋人役をさせていただきます。
とはいえ、ちゃんと訓練を積んだボデイガードなので安心してくださいね」
そう言って、翔は母に微笑んで見せる。その笑顔はキュートでまるで幼い少年のようだ。可愛らしいの言葉じゃ足りないくらい悶絶するほど可愛かった。
すると、あっという間に赤信号が青へと変わる。翔は沙羅にスマホを渡した。
「ママ、嫌だ、何、その顔?」
画面に映る母の顔はピンク色のチークを顔全体に塗ったみたいに真っ赤になっている。
そんな母を見て、沙羅は笑ってしまう。
「沙羅、翔君によろしくね。
次、ママが日本へ帰る時は、翔君を指名するからって伝えといて」
沙羅は大きく呆れたジェスチャーをして通話を終わらせた。すると、沙羅の隣で翔が笑い出す。
「伝えといてねって、全部、聞こえてるよ~~
沙羅のママって最高だね」



