沙羅はタクシーが見えなくなるまで見送っていた。そして、ようやく翔の方へ振り返る。その笑顔は優しさで満ち溢れていた。
「タクシーの運転手さんに、本当にお世話になって…
お礼を言っても言っても、言い足りないくらい…」
そんな可愛らしい事を言う沙羅を、翔は強く抱きしめた。
「沙羅の気持ちは、ちゃんと伝わってるよ…
俺の方からも、また改めてお礼を言っとく」
「…ありがとう」
沙羅はまた涙ぐむ。まだ、精神的に不安定なのは仕方がない。翔はそんな沙羅の腰を引き寄せて、エレベーターのあるフロントまで歩き出した。早く温かいベッドで沙羅を休ませてあげたい。
すると、エレベーターに乗った瞬間、沙羅が翔の顔を自分の方へ引き寄せた。
「翔、この顔の傷…
早く、消毒しなきゃ、跡が残っちゃうかもしれない…」
翔はいきなり大胆になった沙羅に驚いたけど、理由は可愛いものだった。いきなりキスをされると思った自分が可笑しくてしょうがない。でも、そのバトンは受け取った。沙羅にとってはそんなつもりじゃなかったとしても。



