美魔男の完璧な仕事に心が溺れる



 沙羅は待ち合わせの場所まで急いだ。人が大勢いるわけじゃないけれど、久しぶりの外国に気持ちが高揚しているせいで目が泳いでしまう。大好きな日本、そして東京の空気感が、沙羅をなおさら浮足立たせた。
 でも、待ち合わせの場所には誰もいなかった。背の高い時計台はここしかないはずなのに。
 沙羅はちょっとだけホッとしてスーツケースの上に腰をかける。

「ようこそ、東京へ」

 背後でそう声がして、沙羅はすぐに立ち上がった。そして振り返った時、少しだけ胸がざわついてしまう。

「初めまして、細谷翔です。
 今日からしばらくの間、行動を共にさせてもらいます」

 翔の自己紹介は簡単なものだった。
 でも、その前に、沙羅の抱いていたイメージとは全然違う。正直に言うと、あの盛り過ぎた宣材写真のままだった。だから、あれは盛っていたわけではない。あの宣材写真より髪が少しだけ短くなって、清潔感が半端ない。沙羅は翔の美しい顔から目を離すことができずにいた。

「じゃ、行こうか、沙羅」

 沙羅??
 翔はそう言うと満面の笑みを浮かべ、沙羅からスーツケースを奪って歩き出す。