美魔男の完璧な仕事に心が溺れる



 翔はコーヒーを飲み干すと、ダストボックスにそのカップを捨てる。そして、出口よりちょっと離れた場所で待機する。沙羅の素の姿を観察したい。翔に気付く前の沙羅の行動をじっくり観察するつもりだ。
 飛行機の到着時間から30分ほど過ぎた頃、大きなシルバー色のスーツケースを押して出てくる沙羅を見つけた。ホワイトカラーのセットアップにロングの黒のカーディガンを羽織っている。背中までかかる栗色の髪色のせいか、見た目は日本人寄りのビジュアルだった。確かに美しい。正統派の美人、SNSに載っている写真よりはるかに実物の方がいい。
 でも、翔の胸にはあまり刺さらない。外見をあまり重視しない翔の性格は、いわゆる一目惚れという現象を体験したことがない。沙羅に関しても、一つの仕事に過ぎない。それがどんなに綺麗な女性でも。
 そんな中、一つだけ沙羅の意外な一面を見つけた。沙羅は自分のスーツケースのほかに大きなボストンバッグを肩に担いでいた。翔の取り寄せた情報では、荷物はスーツケース一個だけのはずなのに。
 翔はしばらく沙羅の事を観察する。