夕方四時の都心部はどこもかしこも渋滞だらけだ。翔は沙羅と二人でタクシーに乗っている。ホテルの支配人が車を出すと言ってくれたけれど、丁寧に断った。あの豪華な車は目立つだけでほとんど役に立たない。もし、龍也の仲間が沙羅を張っているとすれば、すぐにばれてしまう。
 翔は事務所と関わりが深いタクシー会社にお願いした。万が一に備えて、二人を降ろした後も、近くのコインパーキングで待機してもらう事になっている。
 新宿の街は日が暮れるにつれ人の数が増えて騒がしい。二人が乗っているタクシーは小さな路地に入り込むと、人の波をかき分けながら待ち合わせの店へと向かった。

「店に入ったら、普通にしてていいから。
 何かあったら打ち合わせ通りに俺に合図して。
 俺は近くで沙羅の事を見守ってるから、すぐに飛んでいく」