「沙羅が一緒にいるから、こんな風に美しく思えるのかもしれない。
 本当に不思議だよな。沙羅の力ってマジすごい。こんな面倒くさい俺を簡単に操れるんだから」

 沙羅は何も言わずにニコニコしている。
 翔はもう一度沙羅の手を強く握りしめた。恋愛感情において一番恐ろしい事は、相手への想い一つで想像もつかない激しい力が湧いてくるという事。
 沙羅は吹きつける冷たい潮風に肩をすくめて身震いをした。
 そんな潮風さえ許せない。翔はさりげなく沙羅を自分の胸元に引き寄せた。

「寒くない?」

 沙羅をいたわる愛おしい気持ちは龍也になんか負けるはずがない。

「そろそろ帰ろうか?」

 沙羅は何も言わずに翔にしがみついた。その温もりだけで十分だった。
 沙羅を守るという使命感はもう仕事のためなんかじゃない。今、この時、自分と沙羅のためにと思えた瞬間だった。