「じゃ、一つ提案していい?」
沙羅の不機嫌さに負けないくらい翔は冷静だった。いつもの翔と何も変わらない。そんな翔の変わらない表情に沙羅の感情は一気に急降下する。もうへとへとだった。
「まだ待ち合わせ場所が決まらないのなら、このホテルのロビーを提案してみて。
このホテルが沙羅のお父さんの持ち物だって知っているはずだし、東京の街を知らない沙羅に、急にある場所を指定してすぐに来てほしいっていう事がどんなにたいへんで難しいか分かってるはず」
沙羅は下を向いたまま翔の話を聞いている。
「本当に沙羅の事を大切に想っているのなら、このホテルのロビーにあるラウンジが一番ベストだろ?
例えば龍也の仕事で何時になるか分からないってなっても、沙羅は自分のホテルの部屋で待ってればいい。
沙羅がお金持ちでどんな場所へもタクシーで移動できるとしても、普通の感覚を持って沙羅の事を本当に想ってる人間なら、ホテルでの待ち合わせの提案を喜んで受け入れてくれると思う。
そう思わない?」
翔はソファから立ち上がると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、美味しそうに水を飲んだ。そして、沙羅の隣に戻ってくる。沙羅の返事を待っているみたいな顔をして。



