美魔男の完璧な仕事に心が溺れる



 沙羅の祖父母の家から少し離れたところに住んでいた龍也は、沙羅に会うために毎日自転車に乗ってやって来た。夏の暑い最中、雨の日も風の日も。
 沙羅と龍也は大人の目を盗んで、誰もいない森の中でよく遊んだ。

「沙羅ちゃん、大人になったら俺と結婚しない?
俺は沙羅ちゃんと結婚したい。今は、まだ子供だからできないけど」

 真っ黒に日焼けした顔に、笑った時に見える真っ白い歯が印象的だった龍也くん。元気でたくましくて、森の中で遊んでいても龍也が一緒なら全然怖くなかった。
 いわゆる初恋だったのかもしれない。夜、眠る前には必ず龍也の笑顔を思い出していた。
 でも、それっきりだった。
 アメリカに帰って、しばらく日本へ行く事はなかった。そして、三年後に日本へ訪れた時には、もう龍也はいなかった。家族ともども、どこかへ引っ越したらしい。十歳の沙羅に、それ以上の情報は入らないし、探すなんて考える事もしなかった。