「もう、すぐそんな意地悪を言うんだから」
沙羅は怒ったら鼻の孔が少しだけ膨らむ癖がある。綺麗な顔をしているせいで、その表情はすごく滑稽で面白く見えてしまう。そして、それ以上に強烈に可愛かった。その顔を見ると、翔の中で何かが騒ぎ出す。
抱きしめたい… キスをしたい…
そういう感情を解き放したくなる。
沙羅は翔の前に、ティカップとビスケットを載せたプレートを並べて置いた。そして、あらかじめ準備をしていたティポットから紅茶をティカップへ注ぎ入れる。
今までの翔の人生に、こんな優雅なひと時はなかった。紅茶をたしなむってこういう感じになのかと、改めて感動している。
「どうぞ召し上がれ」
翔にとって沙羅は完璧なお姫様だ。健気で世間の荒波を知らずに育ってきた純真無垢なお姫様。沙羅はそんなイメージを翔に植え付けた。そして、そのイメージは今も変わる事なく翔の中に根付いている。
翔は温かい紅茶を飲むと、気持ちがリラックスしていくのが分かる。沙羅は翔の隣に座って、ビスケットを一枚頬張っていた。



