「今日も二人でイチャイチャ学校来たのか翔斗」
朝休み、それなりに仲の良い小野拓人が俺を囃しにくる。
「別にイチャイチャなんかしてないし。」
「さぞかし表情筋が緩んでいたことでしょう。」
「っ…。」
「本当にわかりやすいよなお前。」
「そんなつもりはないんだけどな。」
「まあ、本人気づいてないようだしよくね? 緋鞠ちゃんさ。」
「おい。」
「わーってるって。冗談冗談。」
拓人が言っているのは、緋鞠の呼び方だ。
さほど緋鞠と仲良くもない男子が下の名前で呼んでいるのを見ると腹が立つことは、拓人も重々承知している。
なぜならそんな奴が出てくるたびに拓人の前で散々暴言を吐いているからだ。
当然、拓人にも緋鞠に指一本触れさせないように、いや喋らせないようにしている。
「ほんっと好きだよな花田のこと。」
「五月蝿い。」
「はいはい。でもさ、やっぱり花井は鈍感すぎじゃね?」
「どの道知られたくないし。」
「でもさ、お前わかってる?
今までは翔斗と花井はもう二人で一つって並に一緒だったからよかったけど、流石に高校となると花井だって友達とつるみ出すだろ?
そうなったら翔斗の防御域から出ちまうんじゃないの?」
「わかってるさそんなこと。」
「鈍感男もそろそろ動かないとやばいかもね。」
丁度そのタイミングで緋鞠が俺のところに話に来て、拓人はいそいそと他の男子の方へと帰っていった。
緋鞠は、俺にとって唯一無二の存在。
幼馴染、だけでは片付けられないと自分では勝手に思っている。
“友達以上、恋人未満”くらいの関係。
普通の片思いよりもいい関係、くらいだと思う。
そう思っているのは自分だけかもしれないけど、少なくとも今はこのままで、この関係を続けていきたいと思った。