「ねえ、緋鞠。」
「ん?」
弁当箱の上に箸を置いて、一呼吸してから柚月は言った。
「それさ…間接キスじゃん!」
昼休み、人はまばらだけれど何組かはいる中庭に柚月の大きな声が響いた。
発せられた単語にギョッとして、こっちを見る人が何人か。
「ちょ、声大きいって…!」
「いやいやいや、いや! だって間接キスだよ? 間接キス!」
わざわざ“キス”を強調されて、こっちが恥ずかしくなる。
「…そうだよ。」
「もうさ、それ付き合ってるじゃん!」
「違うよ…。」
全力で否定するけど、“間接キス”は“間接キス”で、それであることには変わりなくその点に関してはめちゃめちゃ嬉しかった。
いや、ちっちゃい頃からしてたし今に始まったわけじゃないけど向こうからはあんまりないし。
「けど…そっかそっか。遂に咲田くんの愛が溢れ出してきてしまっているのか…。」
「何それ。」
「まま、次の段階に行くのも長くはないのかもしれないね。」
「次の段階って何よ」
柚月の言い方が面白くて、私のツボにはまる。
「えぇー? 告白してくるとかかなぁ。」
呑気に唐揚げを頬張りながら、とてつもない爆弾を投下する柚月。
「な、んなわけないじゃんっ! いやいや、いや、そもそも翔斗に好きな子なんかいないし!」
「へぇー?」
「ちょっと、もうやめてよー!」
「まあさ、今までそんな感じじゃなかった咲田くんがいきなり脈ありサイン出してきてるんだから、いい兆しじゃん。」
「そうだといいけどね…。」
「あっ、ごめん今から部活のランチミーティング行かなきゃいけないこと忘れてた!」
柚月はそう言ってる割にはのろのろと弁当を片付けて、そのままじゃあね!っと行ってしまった。