「よかったね、デートの約束できて。」
全ての成り行きを見守っていた柚月がやっと口を開く。
「ほんと嬉しい。爆死しそう。」
「咲田くんと喋ってる間は全然そんな素振り見せないのに、本当に好きなんだね。」
「好きバレなんか絶対したくないじゃん…? 気まずくなっちゃうだけだし。」
「二人、お似合いだと思うけどなぁ。」
「いいの! 私はこのままでいいの。」
別に付き合いたくないわけじゃない。
でも、今のままで満足してるし、これ以上求めることはないから。“幼馴染”のままでこれからもずっと隣に行けたらいいかなって思う。
「でもさ、いいの?
咲田くん女の子たちに結構人気なんだから先に取られちゃうかもしれないんだよ?」
柚月に痛い所を突かれてちょっと返答に困る。
ああ見えて高二の今日までで30回以上は告白されている翔斗は、一軍女子たちの推しと化している。
彼女でもないのに嫉妬と束縛がえげつなく、稀に私の靴箱に藁人形が置かれてあったりもするくらい。
「…翔斗は誰も付き合いたい人がいないからいいの!」
「ふぅん。あ、もうSHR始まるよ。席帰るね。」
柚月はまだ少し納得していないようだけど、そろそろ朝休みも終わりなので自分の席へと戻って行った。
「おい緋鞠! 日直!」
四つ離れた席からそう言われているのに気づいていなかった私は、チャイムと同時にダッシュをする羽目となったのだ。