「ねえもう私溶けそうなんだけどどうしたらいい柚月!!!!」


借り人競争が終わった後すぐにクラス対抗リレーがあって、あの後翔斗とは話せてない。


腕掴まれてる時なんか心臓飛び出そうなほどうるさくなってたし、まさか“好きな人”で私を選んでくれるとは思ってなかった。


体育祭の中で一番見どころがあるクラス対抗リレーを見れないくらい、まだ私は興奮しまくっている。


「良かったじゃんほんとに。一度は女子が憧れる光景だもんね。借り物競争で好きな人引いた男子に引っ張られるの。」

あ、借り人か、と訂正する柚月にもちゃんと反応してられないくらい。


「どうしよ今翔斗に会っても何もできない。絶対目合わせられない…!」

丁度クラス対抗リレーが終わったらしくて、またアンカーの翔斗が一位でゴールしたから私たちのクラスの観客席は歓声で包まれた。


もうすぐ帰ってくるってことじゃん!



完全に浮かれていた私は、後ろから近づく人たちの気配に気づいていなかった。


「花井緋鞠。ちょっとこっち来なさいよ。」

ポニーテールに、ツインテール、サイドのお団子。全員に共通する赤のはちまきに、バチバチのメイクとお揃いのメガホン。

一瞬で、翔斗ファンの上級生だと分かった。


「緋鞠に何かあるんですか先輩方。」

本気で柚月が怒っている声がするけど、先輩は全く気にする素振りを見せない。

「お前じゃない。私ら、緋鞠チャンに話あるんだよね。部外者は口出さないでくれる?」


「ちょっと来いよ。」

抵抗しても無駄だと分かっていたから、私は言われるがままに3人についていった。





「あんたさ、前からずっと生意気すぎなんだよね。」


運動場に出ている全校生徒が蟻くらいのサイズに見える。


連れてこられたのは、屋上だった。


「折角何回も警告してたのに全然気にしなかったよね。」

「こうなって、当たり前。」


「お前ただの幼馴染だろ?」

「翔斗くんに近づいていい権利なんかないんだよ。」

「ちょっと甘くされたからって調子こいて。」


「じゃあ先輩はなんなんですか?

翔斗とろくに喋ったことないくせに下の名前呼ばわりして。

私がないのだったら先輩方にも翔斗に近づいていい権利なんかないんじゃないですか?」


靴箱の中にたまに入ってくる藁人形。

その時からずっと思っていて、今度呼ばれたら言おうと思ってた。



「翔斗は先輩方の所有物じゃないです。

後、私は翔斗のことが本当に好きなんです。調子に乗って何が悪いんですか。」


運動場はあんなに騒がしいのに、ここの寒いくらいの静けさに緊張で足が震えそうになる。


3人の先輩は一瞬固まったけど、すぐに次の行動に移った。


「よくそんな先輩に向かって軽口叩けるね。」


「大人しく聞くんだったら今回は勘弁するつもりだったけど、もう無理よ。」



「私たちの翔斗くんを脅かす者がいるんだったら、それを消さなくちゃだめ。」


は?


馬鹿なのこの人たち。


厨二病の末路だ。


「ここから飛んだら、死んじゃうかもね。」

3人がどんどん迫ってきて、私は後ろへ後ずさるしかない。


「誰も助けに来ないよ。」

「気づいてくれないね。」

「可哀想に。」