『さぁ続いて始まるのは、我が校新たな伝統競技、借り人競争! 

今年はユーモア溢れるお題が集まっています! クラス対抗リレーとも並ぶほどの盛り上がりを見せるこの競技、果たして、お題になった人は見つけることができるのか!? 赤白どちらも頑張ってください!』

放送が鳴って、運動場が歓声に包まれる。

ひょっとしてクラス対抗よりも盛り上がるんじゃないか?

観客席から少し離れたアンカーの招集場所で俺はその盛り上がりを眺めていた。

『借り人競争、今スタートしました!!』

大きなピストルの音が鳴って、グラウンドに出ている一走の生徒が一斉にお題箱に向かって走っていく。

別に俺自身負けても勝ってもあまり興味はないが緋鞠にとっては大アリなので頑張りたい俺は早く回ってきて欲しいと思っていた。


だが、実際に俺の番になった時には、9チーム中の4番。あまり良くない。


『1年3組アンカー、今走り出します! お題箱へ一目散! とここで出たのはなんと好きな人!!! ここに来て、好きな人が出ました! アンカーです!!

同性もありですが、あまり面白みがない! でも、異性を借りるのはハードルが高い!』


小さな紙に書かれた四文字とハートマーク。

まさかこれが本当に出てくるとは。


でも、この日これが出てきたらどうするかは一応決めていた。


もう俺は間違えない。


篠原なんかに取られてたまるか。


歓声が上がるなか、観客席へと走って向かう。

立って応援をしている緋鞠の腕を掴んで言う。


「借りて欲しいんだろ。」


『1年3組アンカー早い! 借りたのは女の子です! 恋の始まりか?!! それとも終わりか?!』

どっと笑いが起こったが、俺は気にせず緋鞠を連れ出した。

まだ切られていないゴールテープに向かってただ走る。


周りの声なんかより、隣で走る緋鞠の息遣いと自分の鼓動の方が大きく聞こえるのはきのせいだろうか。


実況の声さえももう届かない。




そして俺と緋鞠は、同時にゴールテープを切った。