柚月と手を繋ぎなら元来た道を戻ると、教室の中に翔斗と友達の小野くんと話しているのが見えた。
「どうする…?」
半開きのドアの方に近づいて、柚月が中の様子を見ながら聞いてくる。
正直、今一番会いたくない人と言っても過言ではない。
出て行くまで時間潰す…?
「えっちょっと緋鞠っ! こっち!」
「え、どうしたの?」
ほらほら、と私をドアの前まで連れてきて、しぃーっと言う。
「元気出せって。」
小野くんの声だ。
少し沈黙があってから、翔斗の声がした。
「出せるかよ。」
「もうさ、篠原も悪いけど、今日の今日まで何もしないお前も悪いんだぞ?」
篠原くんの悪口…?
柚月の方を見ると、いいからいいから、と手をひらひらさせる。
「そんなこと言われたって。じゃあなんかできるのかよ。」
「花井もさ、そりゃあの篠原に言われたらちょっとは靡くだろうよ。」
いきなり私の名前が出てきてびっくりする。
「あんなやつに? 緋鞠が?」
「はいはい、どんだけ花井のことが好きなのかわかったから。」
「うるさい。」
え、ええええ、えー!!
声にならない悲鳴が飛び出そうになって、慌てて飲み込む。
柚月は、『ほら、言ったじゃん』とでも言うようににっこり笑顔。
音を立てないようにしながら教室から離れて、中庭へ全力ダッシュ。
「え、えええええー! ねえ柚月、今の聞いた!!!?
聞いた!?」
「作戦会議なんかしなくても良かったね。」
なんて言ったらいいんだろうこの快感。
昨日のことなんか嘘みたい。
本当に、本当に!
なんで私こんなに語彙力ないんだろう。
もっとあったら、ちゃんと今の気持ちを整理できてるはずなのに。
ないから、こうやって飛び上がるしかないんだ。
「え、本当!? もう、ちょっともう柚月!!」
興奮しすぎて、柚月の肩を揺らす。
「もうだから言ったじゃん君らは元から両思いだって。」
いやーもう本当に。
私の気持ちにピッタリの快晴に、これからへの希望で胸を膨らませる一方だった。