走りながら、涙が水の玉になって宙を舞う。
ほら、追いかけてくれやしない。
私のこと好きじゃないんでしょ?
じゃあなんでそんなに聞くの?
わかんないよ翔斗
「緋鞠っ!」
私の名前が聞こえて後ろを振り返ると、柚月がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「緋鞠っ…、おいでって。」
「柚月…」
広げられた手の中に入る。
「柚月っ…もうどうしよ。」
「ほんとどうしちゃったのよ。咲田くんに向かってあんなこと言うなんて。」
お母さんが赤ちゃんに叱るみたいに、優しく言ってくれる。
「どうしよ、あんなこと言っちゃって。私、私本当に翔斗に嫌われちゃったかもしれない。」
結局私が心配するのはそこなんだ。
翔斗に好かれたいんだ。
「大丈夫、大丈夫だよ緋鞠。」
私の背中を優しく叩きながら、そう言ってくれる。
「そもそもね。篠原くんは緋鞠のことが好きだから嘘ついたの。」
「そんな、篠原くんがそんなことするわけないじゃん…」
「じゃあなんで緋鞠が失恋したって時にすぐ告白してくるの? 狙ってるとしか思えない。」
「それは…」
私も少し、思ってた。
「本当に好きならさ、緋鞠が失恋から立ち直って、自分のことを好きになってくれるように頑張るのが普通だと思うよ。」
考えてみたらそうだよね。
ちょっと納得しちゃう。
「そんな篠原くんの言うこと、信じていいの?」
「でも、篠原くんそんな人じゃないよ。」
「いーや。そもそも咲田くんという強敵がいるのにそれを全く無視して緋鞠に初めて告白してきた奴だからね。私は元から裏があると思ってたのよ。」
いつもは優しいはずの柚月が珍しく語調を強めている。
「ねえ緋鞠、まだ諦めたらだめだと思う。
もし仮に咲田くんに他に好きな子がいても、緋鞠には“幼馴染”っていうステータスがあるじゃんか。振り向かせようよ、咲田くんを!」
ほんとに私はいい親友を持ったと思う。
柚月も、私をいっつも勇気づけてくれるし、慰めてくれる。
そうだよね、幼馴染だからってでしゃばるなって言われる時もあるけど、そう。
私と翔斗は幼馴染なんだから。
他の女の子たちよりも、有利なんだ。
「うん…! 頑張る。」
「よし、じゃあとりあえず作戦会議しよう。ファミレスにでも行くか。教室行って、荷物取りにいこ。」