幸せだと思ってた日々は、すぐに崩れる。
本当に些細なことで、それまでの当たり前が当たり前じゃなくなる。
それを痛感したのは体育祭三日前のそろそろお祭りムード、という時だった。
最近よく喋るようになった篠原くんとの会話中に、衝撃の事実は発覚した。
「緋鞠ちゃんさ、気になってる人とかいないの?」
ずっと翔斗のことばかりを考えている矢先にそんなこと言われてしまって、思わず飲み込みかけた唾でむせそうになる。
「えっ、いや…特にいないかな。」
翔斗だよ、だなんて言えるわけもなく嘘をついてしまう。
「じゃあ、彼氏とかもいないの?」
「勿論だよ! そんな、いるわけないじゃん。」
「え、じゃあ僕が立候補しちゃおうかな。」
「そんな、やめてよ」
よくこういう冗談を言える篠原くんはやっぱり女の子の扱い方に慣れているんだと思う。
「でも、そうなのか。咲田の事好きなのかなって思ってたよ。」
「な、な訳ないじゃん! 翔斗? 絶対無理無理。」
「ふぅん。咲田自身は好きな子いるらしいのに。」
え。
え、えー!
目の前が真っ暗になるのを感じた。
一気に、不安が押し寄せてくる。
呼吸をするのが苦しくなるような不安。
あの人全くそんな素振り見せてなかったのに。
いや、けど…私の可能性だってないこともない、よね?
「そう、なの?」
「うん。この学校でいい人見つけたんだって。」
淡い希望は打ち砕かれた。
そうだよね。
私な訳、ないよね。
自惚れてた私が悪い。
翔斗には、好きな子がいるんだ。
「そう…なんだ。」
「いいじゃん、俺のところ来れば。俺を好きになったらいいじゃん。」
そう言う篠原くんの声は、私には聞こえていなかった。
そこから、どうやって家にまで帰ったか分からない。
気づいたら自分の部屋のベッドにうずくまってた。
「翔斗、他に好きな子いるんだったら言ってよ…」
勝手に、翔斗には好きな子なんかいなんだと思ってた。
いるとしたら、それは私じゃないのかなって…自惚れてた。
なのに、違うんだ。
翔斗はいつまでも私の隣にいてくれて、困ったことがあったらなんでも助けてくれて、慰めてくれるんだと思ってた。
でもそう思ってたのは、私だけだったんだ。
布団をぐちゃぐちゃに丸めて、それをギュッと抱き抱える。
涙が枕に染みを作った。
幼馴染、でいいと思ってた。
それだけでいいと思ってた。
でも、違うんじゃん。
結局、幼馴染なんかで満足できないんじゃん。
片思いの時が一番楽しいとか、あるわけないじゃん。
結局私は、翔斗が大好きで。
翔斗に好きになって欲しくて。
翔斗の“好きな人”になりたくて。
一番、になりたいんだよ。
好きだよ、翔斗っ…。ずっとずっと、好きなんだよ…。
自分の我儘さにつくづく呆れる。
でもそれでも。
なんで
「好きになって、くれないの。」