「ん…。」
何かが焼けるいい匂いで目が覚める。
こんなことは、いつぶりだろう。
3歳…?
懐かしいな。
お母さんとお父さんがいる、休日の朝。
私が起きてくると、朗らかに笑う二人。
家族3人で食卓を囲んで、朝ご飯を食べる。
でもこれは夢の中。
目の前には、見慣れない部屋。
あれ、これは夢…なんかじゃない!
翔斗の部屋で、制服のまま眠っていたんだ。
時計を見ると、時刻は八時。
それまでの記憶がだんだんと戻ってきて勝手に真っ赤になる。
どうしよ私翔斗の部屋で寝ちゃったよ。
とりあえず翔斗が私にかけてくれたであろう布団からはいで部屋から出る。
人のお家の中を勝手に覗いてはいけないことは承知の上で、リビングを覗いた。
「あ、起きた?」
キッチンにたった翔斗はこれでもかというほどザ・家庭的男子の雰囲気を醸し出していて、眩しいほどキラキラしてた。
「ごめんほんと勝手に寝ちゃって!」
「別に気にしてない。」
「しかもこんな時間まで…ごめんねすぐ帰る!」
部屋から出ようとする私の腕を、翔斗が掴んだ。
「どうせ家帰っても一人なんだろ? 俺もなんだけど。」
翔斗の言葉の意味に気づく。
私の家も、翔斗の家も母子家庭。
お母さんたちは遅くまで仕事をしていて、日付が変わる頃に帰ってくる。
「なら、うちで晩御飯食べていかない?」
「”お前のお母さんに心配かける”は言わないの?」
少しそう言ってみる。シリアスな話題の時は、ちょっと冗談を入れるくらいが丁度いい。
「たまにはいいだろ。」
「じゃあ、食べてく。」
それから十分と経たないうちに食卓にクリームグラタンと小さなサラダが並んだ。
「これが匂いの正体だったんだ。美味しそう!」
翔斗が私の為に作ってくれたと考えるだけで心が躍る。
「まあ、そこそこの料理なら俺だって作れる。」
エプロンを外しながらそう言ってる翔斗は、それだけで様になっていた。
かっこいい…
こんな翔斗見れるの、私だけだよね。
ちょっとそんな優越感にも浸る。
二人で手を合わせて“いただきます”と言ったら、早速グラタンを食べ始める。