秋晴れが続く十月中旬、私の心の叫びがついに爆発した。


「中間テストだ…、柚月私今度こそやばいよ! 平均切る!
どうしよ後もう一週間前なのに全然数学わからない!」

「大丈夫だよ、なんとかなるよ。だって緋鞠いっつもそう言いながら結局できてるじゃん。」

「柚月は全部余裕だからいいよね…。」

「そんなこと言われても…。そうだ、ほら咲田くんに勉強見て貰えば良いんじゃないの?」

「ばかっ! そんなのできるわけないじゃん!」

「何ができるわけないって?」

後ろからいきなり声が聞こえてきて、ビクッとする。

「そんな翔斗が上手く教えれるわけないってこと!」

本当の意味は“恥ずかしすぎてできるわけない”だけどそんなの言うはずがなく、でまかせでその場を乗り切る。

「あ? “平均切る”こともある誰かさんよりかはよっぽど頭いいと思うんだけど気のですか?」

わざわざ敬語を使って煽ってくる翔斗に余程肘鉄を喰らわせようと思ったことか。


「はいはい、学年トップ3には毎回入ってる翔斗さんすごーい。」

「いちいち反応がムカつく奴だな。」


「で、咲田くん緋鞠に数学教えてあげたらどう? 今日午前中活動でしょ?」

「別にいいけど。」

ナイスフォロー、柚月!
翔斗に見えないように、手を合わせてお礼のジェスチャーをする。



「私は今日お母さんとお昼食べることになってるから二人で行っておいでね。」

また私に気を遣ってくれる柚月の顔は、もう仏様に見えてきた。

翔斗は私の方をちらりと見てから短く「ん。」という。

よっしゃっ!今日はどこでかな?

ファミレスかな? それとも図書室? 
図書館デート…。いや、ファミレスででもいいな。

どっちでも最高!

勝手に一人で妄想して浮かれていたところに次の翔斗の一言で私は完全にノックアウトされた。


「あ、でもごめん俺今日金ねぇわ。俺んちでもいい?」


花井緋鞠16歳、溶けて液体へと化したことにより死亡。

いやいやいや、いや!

こんな時に『利子付きで返してくれるなら貸すけど』とか『じゃあ図書室でしようよ』なんか言う馬鹿はこの世にはいない、だろう。

「うん!」

翔斗はくしゃっと笑って、嬉しそうに「よかった」と言ってくれた。

多分私、今このクラスで、いや学校で一番にやけてると思う。

ーキーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴って二時間目が始まったけど、勿論内容なんか私の頭の中には一つも入って来なかった。