帽子屋が追ってくる!

足音がどんどん近づいてくる!

恐怖に足がもつれ、亜里珠は豪快に転んだ。

「くっ!」

膝から血がにじみ出る。転んで怪我をするなんて何年ぶりだろう。亜里珠は首を横に振り、立ち上がった。と、その時、小さな声がした。

「アリス、こっちだよ。」

声のする方向に目を向けると、小さな少年が木の影から顔を出していた。

「こっち!」

少年は指差した方へ走っていく。

「!…待って!」

亜里珠は反射的に少年を追い掛けていた。

森はアリスの味方。帽子屋を迷い込ませるのは容易いことだった。

「アリスー!」

森のどこかで帽子屋の声が虚しく響いた。