「羨ましいですね、あんな綺麗なマンションに安く住めるだなんて……」
うちにもそう言うシステムがあるといいのに。秘書課のあの上司では、紹介もないだろうけど。
「いつでも出る覚悟が必要なんだけどね、売れたら容赦ないって先輩たちが言ってたよ……」
「……それは、困りますね」
やっぱり、いいことばかりじゃないんだな、と少し笑ってしまった。
近づいてくるマンションは、結構大きくて、コレに私が一人で住んでいるだなんて、栗栖さんは変だと思わなかったのだろうか? と思ってしまう豪華さだった。
盗聴器が、あるから信じているのだろうけれど。
「氷室さん」
「はい?」
「タクシーから降りたら、自分の家みたいなふりして入ってくれる? これ、正面玄関口の鍵ね、かざすだけで開くようになっているから」
栗栖さんが、どこかで見ている可能性があるんだと思うだけで、緊張して身体が固くなってくる。
「……はい」
真間さんからカードキィを受け取って、私は、ギュッとそれを握りしめた。


