氷の華とチョコレート


 それともこっちが、本当の真間さんなのだろうか? タクシーのシートの隣に座る彼を見つめて、ふと感じたまま聞いてみる。


「真間さん?」

「うん?」

「もしかして、怒ってますか?」

「えっ? なんで?」


 驚いて私を見た、彼のチョコレート色の瞳が、一瞬揺れた気がした。そして……、ゆっくりと視線を外して唇を噛む。


「……」


 気付かないうちに、また、なにかしてしまったのだろうか?


「……怒っているのかな? どちらかと言うと、あせってるのかも知れない」


 あせっている?


「氷室さんが、(すご)くモテる人なんだって、再確認させられたと言うか……、情けない話しなんだけど、オレでいいのかな? って思うこともあって……」

「……」


 真間さんみたいな人でも、私と同じことを思う事があるんだと、意外に思えた。

 けれど今は……、隣に座る彼の手をギュッと握って、私は、驚いて見開くチョコレート色の瞳を見つめた。