『はじめまして。わたしは菱川凜よ。よろしく』


そう言いながら凜が手を差し出したのを今でもよく覚えている。

1つ上のお姉さん。

それが凜に対する最初の認識だった。


『・・・よろしく』
『わぁ、遥は女の子みたいにかわいいね』


────地雷をぶち抜かれるまでは。


『ケンカうってる?』


その瞬間から俺は凜に対し、絶対にこいつを屈服させてやると敵対心を向けるようになった。

それからというもの、社交界で凜に会う度、ギャフンと言わせるべく絡むようになっていた。

結果は全部失敗。

それどころか倍で返してくる始末。

そんなんだから周りと衝突することも多いし同世代の友達がいないんじゃないのか。

ツンツンしているわりには挑発にはすぐ乗ってくるし理詰めしてくるし。

だが俺はそんな凜を面白いと思っていた。

マーメイドワンピース、つま先まで意識した所作、腰まで綺麗に伸びた髪の毛、真っ直ぐ上を見据える目。

大人相手でも堂々と意見を言えるのは凜の美徳だ。

それなのに凜の実の父親はそれを評価していなかった。