犬猿の仲の彼の専属メイドになりました。

絶対にご立腹だ。

減給されるかもしれない。

慌ててエプロンを着直して坊っちゃまの部屋に向かった。

だがノックしても返事がない。無視されている。

いや、坊っちゃまのことだ。そんなことするぐらいなら部屋に入れ声を荒げる。

ということは、もしかしてまだ玄関にいらっしゃるのだろうか。


(私を待っている・・・とかかしら)


有り得なくはない。

それで「お前のせいで足が棒のようだ」とか嫌味を言ってくるのだ。

今回は私に非があるので黙って聞いて反省するしかない。

埃を立てない程度に走りながら玄関に向かうと、遥坊っちゃまと郁人(いくと)坊っちゃまの話し声が聞こえた。

郁人坊っちゃまは遥坊っちゃまの兄で、私の3つ年上だ。雅楽代家の跡取りでいらっしゃる。

まだ働き出して間もないが真面目で仕事に熱心な方だという。その反面冷酷な部分があるとかないとか。

遥坊っちゃまとは、ほぼほぼ対極だ。

そんな2人の穏やかではない雰囲気を感じ取った私は反射的に物陰に隠れた。

郁人坊っちゃまが挑発するように遥坊っちゃまに語りかける。