可憐なオオカミくん


「一華!」

 優し気な声。愛しい声が降り注ぐ。
 葵くんの声が耳に届くと同時に、大吾くんは「無罪です!」とでも言うように両手を上に掲げた。


「大吾、お前、近づくなって言ったよな?」
 
「半径1メートル以内に近づいてないから。ほら。な?」

 必死に弁明した後、大吾くんは足早に去っていった。
 きっと、気を使って葵くんと二人きりにしてくれたんだと思う。
 

「一華、泣いてる? 大吾に何かされた?」

「これは……葵くんのせい」

「ぼ、僕? なにか傷つけた?」

 葵くんに傷つけられたことなんてない。
 思い返す記憶の中では、いつも葵くんに助けられている。

「葵くんのおかげで、男性恐怖症治ったかもしれない」

「ほ、ほんとう?」
 
「わ、わたしね……」


 好き。
 そう言おうと、勇気を振り絞った。
 
 勇気を詰め込んだ言葉を言い終わる前に、ふわっと優しい香りに包まれた。
 身体があたたかいぬくもりに包まれる。

 心臓の音がドクドクと振動する。
 すぐには理解できなかった。

 だけど、身体が感じるぬくもりが抱きしめられていることを教えてくれた。

「本当に治った?」

「……」

 葵くんに抱きしめられている。
 半径50センチどころか、今の距離は0センチだ。男性恐怖症の症状が出るなら、蕁麻疹どころか失神しているだろう。

 ドキドキ。心は高鳴り続けている。
 だけど、ぎゅっと抱きしめられるのが心地よい。

 心がほかほかと、包まれるようだった。



「……治ったみたい」

「ほらね。言ったでしょ? 僕が治すって♡」

「本当に治った」

「これでやっと言える……」

「え、」

「一華が好き」
 

 
 パッと赤く明るい灯りが灯る。

 「きゃー!」「きれーい」
 同時にあちこちから歓声が沸き上がる。
 キャンプファイヤーの点火台に火が付いたようだ。

 辺りが一気に炎の明るさに包まれる。
 ほんのりとしか見えなかった、葵くんの顔がはっきり見えた。
 
 
 沸き上がる歓声に掻き消されないように、声を張り上げた。


「わたしも、葵くんが好き!」


 少し照れたように、にこりと笑った葵くん。
 とびきり可愛い笑顔だった。