可憐なオオカミくん




 あれ。泣きたくないのに、視界が涙で滲む。
「行かないで!」そう伝える度胸も勇気もないくせに。

 涙が出ないように唇をぎゅっと噛み締めた。だけど、止まってはくれなくて。
 泣きたくないのに、涙が零れた。


「一華ちゃ……立花さん! なにしてんの? 泣いてるの?」

 大吾くんが大きめの音量で言い放つ。
 なぜ大きめな声なのかと不思議だったが、ある一定の距離を保っていてくれたからだった。


「あ、ごめん。葵がさ、立花さんには半径1m以上近づくなって。近づいたら殺すって言われてて。あいつまじな顔していうからさ」
 
「え、こ、ころ?」
 
「大丈夫?」
 
「葵、呼んでこようか?」
 
「大丈夫だよ。ありがとう」

 大吾くんが本気で心配してくれているのが伝わってきて嬉しくなる。
 以前のわたしなら、男子とこんな風に普通に話すことなんて出来なかった。

 変われたのは、葵くんのおかげかな。

 大吾くんのおかげで、涙を流しながらも笑顔が溢れた。