可憐なオオカミくん


「一華? どうした? あんな大声出るんだな」
 
「う、うん。自分でもびっくり」

 自分でも驚くほどの大音量で叫んでいた。
 葵くんと出会ってからのわたしは、自分でも気づけなかったことに気づかされている。


「あ、葵くん、」

 ここで問題の発生です。穂乃果ちゃんに「葵を捕まえておきなよ」そう言われて、勢いで呼び止めてしまったけど。その後どうしたらいいか聞いていない。

 捕まえたあと、どうすればいいのかわからない。

 穂乃果ちゃん。正解を教えておくれ。
 穂乃果ちゃんがいるはずのない、夜空を見上げて願った。



「一華?」
 
「あ、あの……」

 言葉に詰まっていると、かわいらしい声が降ってきた。

「あの、早乙女葵くん。少し時間もらえますか?」

 頬を染めて伏し目がちに葵くんに投げかけた。声は震えているように聞こえた。
 わたしだってわかる。これは呼び出しで、葵くんはこの子から告白されるんだ。


 穂乃果ちゃん。
 葵くんを捕まえていたのに、告白されちゃうよ。

 葵くんは、わたしと声を掛けてきた子を交互に見て、困ったような表情を浮かべた。
「行かないで!」その言葉を言えたらどんなにいいだろう。
 そんな勇気、わたしにはなかった。

「葵くん。わたしは大丈夫だから」


 強がりの仮面を貼り付けて、物分かりの良いフリをした。

 
「一華、ごめん。ここで待ってて?」


 葵くんと女の子は、肩を並べて歩いていく。ずきん。胸に痛みが走る。思わず目を伏せた。
 次に顔を上げたころには、二人の姿は暗い闇の中に消えていた。


 心にモヤモヤが広がっていく。