俺様同期の溺愛が誰にも止められない

「し、知らないわよ」

私は当然のように嘘をついたけれど、やはり心が痛い。
こんな風に秘密を抱え仲間をだますような生活は早く終わりにしたい。
しかしそう思っている時に限って、事態は悪い方へと流れていく。

トントン。
「お邪魔しまーす」

ノックの後返事も待たずに空いたドアから顔を覗かせたのは噂の人だった。

「あら影井先生、珍しいですね。どうしたんですか?」
ドアの近くにいた看護師が反応して立ちあがった。

確かに、救命科の影井が内科の病棟に来ることはそう多くはない。
私も何かあったのかしら不思議にと思っていると、なぜか影井が近づいてきた。

え、ええ。
私はつい身構えてしまう。

「これ、忘れて行っただろ?」
そう言って差し出された手には私の吸入薬があった。

あああ。
そう言えば、今朝薬を渡されたものの荷物が多くてカバンに入らなかったから置いてきたんだった。
わからないようにこっそり片づけてきたたつもりだったのに・・・

「はい」
「うん、ありがとう」

拒むわけにもいかず受け取ったけれど、周囲からの視線が痛い。