俺様同期の溺愛が誰にも止められない

「うーん美味しい」
軟らかく煮こまれた牛肉を口に入れ噛み締めた瞬間に声がこぼれた。

凄い、凄すぎる。
脂身の少ない部位を丁寧に下ごしらえしてじっくりと時間をかけて煮込まれたのがわかるお肉に、甘すぎず辛すぎず少し酸味があってそれでいて遠くの方で赤ワインの香りもする絶品デミグラスソースがとてもよく絡まっている。
これは今まで食べたビーフシチューの中でも一番の味。

「うん、美味いね」

ふふふ。
影井も同じことを言っている。

「一体どこのレストランに頼んだの?」

どう考えても素人の料理には思えなくて、きっとどこかのシェフにでも頼んだものを運んでもらったのだろうと予想した。

「これは姉さんが作ってくれたんだ」
「お姉さん?」
あまりにも意外な答えに、口が開いたまま固まった。

「こっちで暮らしている姉さんが時々マンションの片づけに来るんだ。普段は料理なんて作らないんだが、今日は母さん直伝のビーフシチューを作っていってくれたらしい」
「へえー、そうなの」

ってことは、このビーフシチューは影井にとっておふくろの味ってことかしら。
そう考えると、影井はやっぱりお坊ちゃんだってことよね。
私の実家でこんな手の込んだビーフシチューは出てこないもの。