俺様同期の溺愛が誰にも止められない

黙って姿を消せば、影井だって怒るだろう。
もちろんそれも承知はしているけれど女子たちの恨みをかう方がもっと怖いから、私は一人レストランを出てロビーを抜け正面玄関を目指した。
しかし、

「おい、随分かわいい真似するんだな」

あと少しでホテルと出るってところで、影井に声をかけられた。

「ごめんなさい、支払いもせずに逃げ出して。後で必ず」
払うからと言いかけたのに、
「問題はそこか?」
再び腕をとられ、睨まれる。

違うと思う。一緒に食事に来たのに黙って逃げ出すことの方が問題だとわかってはいる。
でも、
「知り合いがいたの。影井だって、職場で変な噂をたてられたら困るでしょ?」
「俺は別に気にしない」

そうね、影井にとってはいい女子避けになったくらいのことだろうけれど、私は多くの女子たちを敵に回すことになる。それは避けたい。

「笑いたければ笑えばいいわ。でも、私は困るのよ」
この気持ちは影井にはわからないだろう。

「いや、そう間違ってはいない」
「え?」

きっと周りの目なで気にせずに堂々としていろと言われるのだと思ったのに、不敵な笑みを浮かべながらニコニコと私を見る影井が少し怖い。

「行こう」

そのまま腕を引かれ、私も歩き出す。
不満はあるもののどうすることもできず、私は影井について行くしかなくなった。