フィンレーとスカーレットは、
黒い影を追って、広い草原を走り続けた。
途中、追い風が強く吹き、
体が自由に動けなかった。

ふと顔を見上げると、モノクルをつけた
耳の長い白いうさぎがあらわれた。
懐中時計を胸ポケットに入れて、
ジャンプしては
こちらの様子を伺っている。

攻撃はしてこないのか、
フィンレーは様子を見つつも、
鞘から剣を引き抜いて、構えていた。

一瞬、辺りが真っ暗になったかと思うと
ぐるぐると紺色と黒の
マーブリングのような景色に切り替わった。

目の前にいたうさぎが、懐中時計を取り出して
何やら、ボタンを押している。

次元を変えた。

「あいつが何かしたのか。」

頭の中に、カチカチと時計の針の音が
大きく響く。
洗脳されているのか。
頭痛がする。

「スカーレット、大丈夫か?!」
 
 剣を持って、右に左にフラフラしている。

「フィンレー、何してるの?」

 心配になって近づくスカーレットの顔がゆがんだ。
 妖怪のように伸び縮みしている。

 近くにいるはずなのに、お互いに見えている景色が違う。

 スカーレットの見ている世界は、
 現実のまま、変わっていない。
 
「あいつに気をつけろ!!」

 油汗がしたたり落ちる。
 フィンレーはその場に倒れこんだ。

 スカーレットは、歩み寄って、万能薬を
 取り出して、フィンレーの口に含ませたが、
 効果はなさそうだった。

 うさぎは、こちらを見て、ジャンプを繰り返す。
 
 スカーレットは、持っていたカバンの中から
 技の無効化機能を持つ、サングラスをかけた。
 
 剣を鞘から引き抜いて、切りかかりに行く。

 

 フィンレーは、真っ白い世界にただ一人、佇んでいた。

 夢なのだろうか。

 ここはどこなのだろう。

 周りは、何もない。

 着ていた装備品はそのままの状態で、
 剣も背中の鞘におさまったまま。

 けがはしていない。

 キラキラと輝く光の中から人が現れた。
 茶色く、長い長い髪をウェーブに垂れ流し、
 真っ白い服の間から胸の谷間が見えるような
 美しい背の高い女性だった。

「我の名は、アルテミス。
 汝、この世界を救うものか?」

「……え?」

 顎をくいっとあげられて、顔を見つめられた。

「汝は世界を救うのか?!」

 2回目の問いには、怒りが見えた。

「え、あ、はい?」

 疑問形で答える。

「ならば、
 汝に力を授けよう。
 強い力だ。
 それでも受け取るか。
 時として、
 この力は、傷つけていけないものを
 傷つけるかもしれない。
 それでもよいか。」

「傷つける…。
 敵に立ち向かうには
 多少の犠牲は伴うものだ。
 それでもいい。」
 
 フィンレーは、すぐに同意した。
 アルテミスは、フィンレーの言葉を聞いて
 すぐに天高く、手をかざした。

「汝に力を分け与える。
 いつでも、呼び出せるように
 剣の柄に宝石をつけておく。
 戦いの時は、この召喚獣を呼べ。」

 青白く光る空から大きなオピニンクスが
 翼を広げてあらわれた。
 
 オピニンクスは、
 頭、首、翼がワシで、体がライオン、
 しっぽがクマの3種類の動物が
 組み合わさっている。

 持っていた剣には、
 エメラルドの宝石が
 魔法の力で
 キラキラと取り付けられている。

 目の前に降り立ったオピニンクスは、
 フィンレーの横に行くと、
 口から炎を出して、強さをアピールした。

「少々、暴れん坊なところもある。
 丁寧に扱いなさい。」

「……はい。」

 よくわからない状況にとっさに
 返事をした。

 アルテミスは、手をかざして、
 オピニンクスに魔法をかけた。

 すると、フィンレーの剣に埋め込まれた
 宝石エメラルドの中に吸い込まれるように
 入って行った。

「それは、召喚獣オピニンクス。
 戦いの時にきっと、役に立つだろう。
 そいつは、時々、味方にも攻撃することもある。
 防具をしっかりつけておきなさい。」

 アルテミスはそう言うと、
 また目の前が真っ白に光りだし、
 目を開けることが
 できなくなった。
 
 
 現実の世界だろう。

 スカーレットの隣にフィンレーは倒れていた。

「フィンレー!! フィンレー!!」

 何度も声をかけていたようだ。
 やっと目を覚ます。

「うっせーな。
 起きてるよ。」

「よかった。やっと起きたんだな。」

「ああ。」

 フィンレーは、ジャンプして、
 体を起こした。

 スカーレットは胸をなでおろしていた。

 地面に落ちていた剣を見ると、
 夢に出てきた宝石がついていた。

「あれ、これって。」

「どうかした?」

「ん、いや。
 ちょっと、試してみるわ。」

 フィンレーは、宝石部分に手を触れて、
 名前を唱えた。

 吸い込まれていたオピニンクスが急に出てきた。

「もう、呼ぶのか。」

「うわ、しゃべった。」

「え?! 何、この生き物?動物?
 何これ。」

 スカーレットは、目を丸くして驚いている。

「なんか、さっき夢の中かわからないけど、
 胸のでかい女の人に召喚獣?だか
 呼べるって言われて…。」

「夢ではない。
 別世界だ。」

「またしゃべった。」

「胸のでかい女?!
 悪かったわね、貧乳で。」

 スカーレットはそこだけに反応する。

「そういう意味じゃねぇって。
 とにかく、神様みたいな服着てて、
 その動物?が力貸してくれるんだって。」

「オピニンクスだ。」

「これ、めっちゃ、しゃべるね。」

「これっていうなよ。
 力貸してくれるから。
 助けてもらおうぜ。」

「貸すとは言ってない。」

「は?」

 目を大きくして驚くフィンレー。

「力を分け与えると言ったんだ。」

オピニンクスは、遠くを見て、目をつぶる。

(なんだか、面倒な奴を連れてきたかもしれない…。)

 フィンレーは、不安になりながら、腕を組む。

「というか、黒い服の男たちは一体どこに行ったんだ?
 ソフィアは?」

 本来の目的を思い出す。
 スカーレットは、
 手をたたいて、ひらめいている。

「見失った。
 もうわからない。」

「なんだよ。知ってたわけじゃないのね。
 んで、どうするのよ。」

「お前たちが探してるのは知ってる。
 着いてこい。」

 オピニンクスは体をかがめて、背中に乗るようにと
 促した。

「え、私、高所恐怖症なんだけど…。」

「いいから、行くぞ。」

 フィンレーは、スカーレットの腕をつかんで、
 オピニンクスの背中に乗った。

 白い雲がかき分けて大空へと飛び立った。

 スカーレットは、泣きながら、がっちりと
 オピニンクスの体にしがみついていた。

 フィンレーは
 高いところから見える景色を
 堪能していた。