トリエネ村を出て、広い草原フィールドに
強い風がふきつけた。
ソフィアは、白いフードを飛ばされないように
おさえて、背中に剣を持つ騎士である
スカーレットとフィンレーの
後ろをくっついて歩いた。

スピードを緩めないようにと
急ぎ足で追いかけた。

 どうして、今、私はここにいるんだろう。

 白いローブを顔が見えないくらい着て、
 茶色い小さなバックを
 ななめにかけて、皮靴を履いている。

 記憶が自分の名前くらいで
 これまで何をしていたか覚えていない。

 無性にバックに入っている緑色の
 宝石に夢中になり、時々手にとっては
 握りしめていた。

「スカーレット、そういや、
 俺たち、昇格試験って話だけど、
 次は、何をするんだっけ。」

「えッと…自動的にさっきのトリエネ村の
 熊?倒したから、平和になったじゃない?
 治安良くなったよね。
 洞窟の小ボスも倒したし…。
 というか、私も実際どうすりゃいいか
 わからないんだよね。
 ちょっと待って、見てみる。」

 左腕につけていたプラチナでできたリストを
 胸元に出して、スライドさせると
 透明なウィンドウが開き、世界のマップが
 表示された。

「確か、マップを見て、
 赤く光ってるところに
 敵がいるから、倒していくって
 話だったような…。
 今いるところは、トリエネ村を過ぎたところで
 赤かったのが、青く光ってる。
 ここはクリアしたってことかな。
  ねぇ、フィンレー、行き当たり
 ばったりすぎない?
 よく調べてから行こうよ。」

 そう話してるうちに、
 後ろで立ち止まっていたソフィアの
 お腹あたりからすごい長い音が
 響いていた。

 ぎゅるるるるるうぅぅぅう。

「今の音、何? 
 モンスターの鳴き声かな?」

 スカーレットはあたりを見渡したが、
 誰もいなかった。

 フィンレーは、なんとなく察知して、
 両手でお腹を隠したソフィアのそばに
 歩み寄った。

「ソフィア?」

「……ご、ごめんなさい。」

「いや、謝ることはないんだけどさ。
 大丈夫かなと思って。
 さっき、全然食べてなかったろ?」

「……。」

 目を合わせようとせず、遠くを見ていた。
 ここで何かを発したら、
 わがままな人だと思われるのが
 嫌だと思っていた。

「食べたいって思うものって、違うんだろ?
 俺は、基本なんでも食べられるけど…。」

 頭のうしろに腕を組んで、考えて話すフィンレー。
 まったくその通りだと納得した。

フィンレーは、先に進むスカーレットに声をかけた。
遠くて何を話してるかわからなかった。
ごにょごにょしているかと思ったら、
すぐに戻ってきた。

「ソフィア、このまま行くと
 ムレッタっていう国に着くから。
 そこはさっきの村より
 大きい規模の街だから
 おいしいもの食べられるぞ。」

「べ、別に…お腹なんて空いてないから。」

 と言いながらも、ずっと獣のような鳴き声で、
 お腹の長い音が鳴り続けている。

「嘘、つくの下手だよな。」

「……。」

 顔を耳まで赤くして、
 黙ってフィンレーの背中を
 ぽかぽかたたく。

「お腹が空くのは健康的な証拠だろ?」

 たたかれるのを恐れてソフィアから
 逃げ回るフィンレー。
 スカーレットの周りをぐるぐる回って、
 犬同士の喧嘩のようだった。

「2人とも落ち着きなよ。
 もうすぐ着くんだから。
 ソフィア、まともにフィンレー相手に
 するなって、疲れるだけだから。」

 その話を聞いて、突然足を止めた。
 
「それもそうね。
 スカーレット、早く行きましょう。」

 突然、気が変わったように、
 ソフィアは、
 スカーレットの腕をつかんで先を進んで行った。

 なんのためにここにいるのかわからないが、
 とりあえず、お腹を満腹にさせようと
 気持ちがシフトされた。

 足取り軽く、ムレッタ王国の出入り口の
 可動橋を3人は、渡っていく。

 大きな噴水と銅像がある街の中央では、
 小さな男の子がつかんでいた赤い風船が
 大空へ高く飛んで行った。

 南の空では入道雲が発生している。

 フィンレーは、背中の武器を背負いなおして、
 茶色の石畳を歩いていた。