真っ暗な洞窟の天井から、雨水が滴り落ちている。
この雨水が石灰岩より落ちることにより、
だんだんと
岩を侵食して削れていく。


ところどころに積み木のような鍾乳石が盛り上がっている。
フィンレーとスカーレットは、騎士の昇格試験で、
洞窟にいるモンスターを倒し、城の周りの治安を
守るというミッションが与えられた。

あわよくば、
洞窟にあるとされる翡翠の原石を
見つけられるといいなと思いながら、
2人ともグレートソードを片手に持ち、
モンスターが現れたら
すぐに振り下ろそうと
待ち構えながら、中に進んでいった。

もう片方の手にはたいまつがあった。

ぼんやりと光るたいまつを前にやると、
真っ暗な奥の方から、悲鳴のような
声が聞こえてくる。

「きゃー---。」

白いフードかぶった少女は
出口の方に向かって駆け出しているが、
後ろから得体のしれないモンスターが
追いかけてくる。

「フィンレー、来るぞ。」

「おう。でっけぇ、ミミズみたいで
 気持ち悪いけどなぁ!!」

 じりじりと迫りくるのは、
 体長はざっと3ⅿは超えるミミズの姿を
 したブラットウォームだった。
 その名の通り、血を吸うモンスターだ。
 血を吸われたら、体力と耐久力が減ってしまう。
 生息地は、湿った場所を好み、
 水の中では生きられない。

 フィンレーは剣をブラットフォームの
 頭から下へ振り下ろした。
 HPは半分減らすことはできたが、
 まだまだ動いている。
 
 血を吸われる前にと、スカーレットが
 魔法を唱える。

 手のひらを上に、丸くおにぎりを作るように
 動かすと、直径20㎝くらいの水玉が
 浮かびあがった。

「ウォーター!!」

 天高く、手を伸ばして振り下ろすと、
 濁流のような水が現れて、
 ブラットフォームは
 飲み込まれていく。
 攻撃される前に、どうにか、
 動きを封じ込めた。

 モゾモゾと動いたかと思うと
 一瞬して、砂のようにさらりと消えていった。

 2人は、経験値を獲得した。

 岩の影に隠れていた少女は、
 静かに目だけを出してこちらを見ている。

「大丈夫ですかぁ?」

 フィンレーは、心配そうに近づく。

気づかれたと思った少女は慌てて、
その場を右に左に
行ったり来たり。

「あ、あの。見えてますよ?」

「……あ、あ。」

「大丈夫、
 怪しいもんじゃないです。
 僕ら、
 メンフィリア帝国の
 兵士候補生です。 
 今、試験の真っ最中。」

「はぁ…。」

 目深までかぶったフードをさらに
 かぶって、ため息をついた。
 
「私も同じ、兵士候補生です。
 スカーレットといいます。
 こんな危ないところに
 なんでおひとりで?」

「それは……言えません。」

 言葉を話していることを
 うれしく感じたフィンレーは、
 じりじりと近寄った。

「話せるじゃないですか。」

「わ、わ、わ!」

 恥ずかしくなってきたのか、
 また岩の影に隠れようとする。
 すると、つるつると滑るのか、
 すってんと大きな音を出して、
 転んでしまった。
 打ちどころが悪く、気を失っている。
 一瞬の出来事だった。

「あ。あらら?」

 フィンレーは、目をつぶっている
 彼女の顔をのぞいた。
 
 白いフードはさらりとはずれて、
 肌は白く、長いまつげと大きな目、
 厚めの唇が見えた。

(あれ、この娘、どこかで…。
 気のせいか。)

 腰を落として、気を失った彼女を
 お姫様抱っこをした。

「まったく、こんなところで寝てたんじゃ、
 モンスターに襲われるんだろって。」

「確かに。
 今のところ、出てないから大丈夫。」

「俺、戦えないから、守ってね。
 スカーレット、よろしく。」

「はいはい。わかったよ。」

 長いポニーテールの髪をなびかせた。

 すやすやと安心して
 眠っているような顔をした少女を
 抱っこして、フィンレーは
 なんだか心地良くなった。

 少女の手にはがっちりと
 何かを握りしめていた。

 洞窟の外ではこうもりが何羽も飛んでいた。