地上に雨を降らせる作業を
ひたすらしていた。
もう、それしかやることはなかった。
代り映えのない時間。

あとは、1日の食事と睡眠で、
また魔法を使って雨を降らす。

どこに向かっているのかわからない。

箱の中に閉じ込められた自由のない世界だ。

はみ出そうという考えに至らない。

また今日も魔法を唱えようと杖を振りかざそうとした。

『ソフィア!!』

キンと頭が痛くなる。
耳元でフィンレーの叫ぶ声が聞こえる。
でも、隣にフィンレーはいるのに、
なんで叫ぶんだろうと疑問だった。

「ソフィア、そっちはもう唱えた?」

「あ、うん。今からだけど。
 ねぇ、フィンレー、今、何か言った?」

「え?」

『ソフィア!! 目を覚ませ!!
 それは現実じゃない!!
 起きろ。』

杖を持つ軽装のフィンレーの目の前に
壁を破ったような空間が現れて、
鎧をまとったフィンレーが腕を伸ばしていた。

「え?! フィンレーが2人?」

 ソフィアは重なって見えるフィンレーに
 驚いた。

空間にできた壁から出てきたフィンレーが
背中の剣を引き抜いた。

「これは、俺じゃない。
 俺に見せかけたモンスターだ。
 早く気づけって。」

 その言葉を発すると、
 急に軽装のフィンレーは、
 顔が剥がれ落ち、耳や手足の長い緑色の
 エイリアンが出て来た。

「きゃー--。」

 ソフィアは、フィンレーの後ろに移動して
 逃げた。

「逃げてる場合じゃないって倒さないと!」

 フィンレーは、剣を振り上げて、ダメージを与えたが、
 まだ生きていた。

「だめだ、さらに魔法を使おう。」

 剣を鞘に戻して、手を丸くかざした。

『ファイヤーボール!!』

「うぎゃー--。」

会心の一撃をくらわしたようだ。
砂のように一瞬にして、消えていく。

さっきまで見えていた
雲の絨毯が真っ白に消えて、
金の池の中に戻った。

周りは金色の水だった。
水の中のはずなのに、呼吸ができる。
水のちょろちょろと流れる音が響いている。

「フィンレー、どうなってるの?」

「説明はあとだ。
 次は、スカーレットを助けに行ってくる。
 ソフィアは危険だからここで待っててくれ。」

 ソフィアは、駆け出すフィンレーを
 見ていると、足もとでごにょごにょと話す声がした。

「また失敗したわ。なんですぐ出てくるかな。」

「今回も強いわね。
 すぐ謎解いちゃうから。
 普通はそのまま過ごしちゃいそうだけど…。」

「ねぇ。」

ソフィアは、話している小人たちに声をかけた。

「うわ!? なんだ、人間?!」

「捕まるぞ。」

「大丈夫、捕まえないわ。
 なんで、そんなひどいことするの?」

「……。
 ひどくないやい。
 俺らは、この池の番人だ。
 池を盗もうとするやつらを
 こらしめてるだけだ。」

「そうだそうだ。」

「え、池を盗むってどうやって?」

「この金の池は見ての通り、金色だ。
 なんで金色かって、池の底にたくさんの
 金が沈んでいるんだ。
 俺たちも見たことはないけど、
 それを守れと指令されてるんだ。
 だから、この池に入ったやつ
 みんなの脳みそに
 幻覚を見せてるんだ。
 絶対、金は取れないんだぞ。」

「……そうなんだ。
 でも、私たち、金が目当てで
 来たわけじゃないのよ?」

「???」

「ちょ、こいつら、
 金は欲しくないって言ってるぞ。
 どうする?」

「な、何が目的だ?!」

「それは、ここに現れるモンスターを倒すためよ。
 大きなモンスターはいないかしら?」

「な、なんだって?
 それは…今までないことだ。
 そしたら、俺たちは安泰だ。」

「え、どういうこと?」

 2人の小人はダンスをして喜んだ。

「指令を出すっていうボスがいて、
 それが、昔から住み着いてる大きいモンスター
 頭が3つもあるケロベルスだ。
 この金の池の中のどこかにいる。」

「そのボスからの指令を断れば、
 俺たちは始末されるんだ。
 ずっと番人をしていないといけないんだ。」

「そうなのね。
 安心して、
 私たちがモンスターをやっつけに
 来たから。
 でも、今、スカーレットを助けに
 フィンレーが行ってるから。」

 ソフィアは、フィンレーが向かった先を見るが、
 どこにもいない。

 上を見上げると、森の木々たちが
 見え隠れする。
 太陽の光が少しだけ差し込んでいた。

 どうすればいいか、急に不安に襲われる。
 回復魔法しか使えない自分に
 モンスターが出てきても倒せない事実に
 心配になってきた。

小人たちはずっとダンスをしてぐるぐるまわっている。