天蓋が大きなベッドに広がっていた。

ここは、ソフィアの住むお城の1室。
ため息をついて、落ち込むソフィア。

 今夜は、好きでもない人と
 お見合いをするという王が
 勝手に決めた会食。

 王と妃、年の離れた小さな2人の妹たちも
 交えて食卓を囲っていた。

 次々と執事たちにより、豪華な食事が運ばれている。

  向かい側の席には、今回のお見合い相手の
 マラツメリアス王国から来たジュリアンという
 男が座っていた。
 
  3人兄弟の末っ子で、頬にそばかすをつけて、
 髪がくるくるの金髪でたれ目であり、
 どこか頼りなさそうな人だった。
 
  両脇にマラツメリアス王国の王様と妃様が
  座っていた。

  王様たちは、政治的な話と、両者が平和に過ごせると
 笑顔で食事をしながら、話し合っていたが、肝心の本人たちの
 意見は蚊帳の外。一切話すことはできなかった。

 向かい合って座っていたソフィアとジュリアンは、
 それぞれ黙々とナイフとフォークを持って食べていた。
 贅沢にも高級なステーキやトリュフのソース、
 キャビヤなどいつも出てこないものばかりだった。

 結婚とはなぜするのだろうか。
 
 国のためなのか、自分のためなのか。
 王女と言いながらも、
 結局は男性が主導権を握ることになるのだ。
 父も母に婿養子として来た身分。

 ソフィアは、16歳にして、
 早くも相手を見つけなければならない。

 その決まりに納得できなかった。

 好きにもなれそうにない相手に
 媚びを売って過ごすのも難しい。

 突然、席を立ち、
 つけていたナプキンを外して
 部屋を出た。

「ソフィア!!どこに行く?!」

 鬼の形相のような顔で
 父のテオドールはこちらを見る。
 食事をしていた皆も、注目している。

 テオドールの隣にいた母のマリオンは、
 心配そうにこちらを見る。

 見られるのも嫌になる。

 下唇を噛んで、何も言わずに
 立ち去った。

 それに気づいたジュリアンは、立ち上がって
 追いかけた。
 ジュリアン自身も望んで来ていたわけではない。

 部屋を出て、大きな扉の近くにある
 階段の踊り場の窓を見た。

 小鳥たちが屋根の上で仲良く飛んでいるのが見える。

「……嫌になりましたか?」

「……。」

「あなたのせいではないわ。」

「私もこのやり方に反対しています。
 同意を得ない結婚なんて…。」

「嫌なら、やめましょう。
 お互いのために。」

ジュリアンは外を見て、ため息をつく。

「そんな簡単にできるものなら、
 とっくにしています。
 父とテオドール様は、企んでいるのです。
 この結婚により、同盟を組み、
 戦争の兵力が倍に跳ね上がると
 喜んでおります。
 私たちだけの話ではなく、
 国の今後の問題にもなっているようです。
 西軍と東軍との戦いが始まるとされている中、
 この結婚で、勝敗が決まるのもおかしくないです。」

「そんな話、聞いていません。
 父は、純粋にあなたが私にお似合いだと…。
 嘘をついていたのですね。
 もし、この話が無くなったら、どうなるのです?」

「わかりません。
 国それぞれが滅びてしまうのも
 時間の問題かもしれないですし、
 両者が戦う相手国になる
 可能性もあるのかもしれません。」

 息をのむソフィアは、
 どちらにしても
 血を争う話だということだと知った。

「それなら、もうどちらにしても 
 平和になることはないですね。」

「……まぁ、戦争を始めるわけですから。
 血が飛び交うことでしょうね。」

「そうですか。せっかく来ていただいたのに
 申し訳ないですが、このお話は…。」

「充分、承知の上です。
 私も生涯をともにする相手を
 蹴ってまで結婚するつもりでは
 なかったので、私の方こそ申し訳ありません。」

「いえ、すっきりしました。
 でも、このようにはっきりと
 父に話すことはできないので、
 このまま逃げ出しますね。
 いずれ、血が飛び交うのであれば、私は、
 存在していてはいけない気がするので……。」

「え?!まさか、命絶たれる訳ではないですよね?」

 ジュリアンは、血相を変えて驚く。

「いえいえ、まさか。
 そんなことするわけないじゃないですか。
 ただ、このお城から出るだけのことです。
 探さないでくださいね。」

 ウィンクをして、ジュリアンに別れを告げる。
 自分の部屋に駆け出し、必要な荷物を急いで、
 かき集めて、白いローブを目深にかぶり、
 執事たちに見つからないように裏口の可動橋を
 走った。


 これからメンフェリア帝国の
 騎士階級試験が始まるという表の会場には、
 フィンレーとスカーレットは行列にならんでいる。

 フィンレーとソフィアの肩がぶつかる。
 

 それが、初めて3人が会った瞬間だった。


 広く青い空には、トンビが高く高く飛びかっていた。