コバルトブルー色の空に
大きな大きな入道雲ができていた。
その下には、天まで届きそうな
お城の赤い屋根がとんがっている。

城下町では、たいそうにぎわっていて、
平和な街かと思われていた。

裏口の入口を抜け、
白いフードを顔を隠して、
覆いかぶっている女が、
ギシギシとなる可動橋を
走り去っていく。
小さな茶色のショルダーバックが
揺れていた。
吐く息が荒い。

とにかく、ここから逃げ出したい。
その一心で城の中、そして、
城下町を無我夢中で抜け出した。

誰にも見つからないようにと
必死で駆け出す。


そんな、茶色とベージュ色の交互に
石が敷き詰められた城下町で
女は、肩がぶつかって、転んでしまう。

頑丈な鎧を身にまとった青年は
ブロードソードを背負っていた。

「あ、ごめんなさい。
 大丈夫ですか?」

 小柄で小さな彼女は、顔を見られたら
いけないとすぐにフードをかぶり直し、
何事もなかったように立ち上がった。

落ちたバックを拾い上げ、
瞬く間に
いなくなった。

「フィンレー、何してるの?
 ほら、そろそろ行くよ。」

 横には、男剣士のフィンレーと
 同じく
 がっちりした鎧を身に着けた
 女剣士スカーレットが、声をかける。

 剣士の昇進試験がお城の中にて
 行われる。
 城下町はかなり混み合っていた。

 彼らはここメンフェリア帝国の
 城下町に住んでいた。

 昔から、剣士になることを望み、
 将来は、騎士団に入ることを
 夢見ている。
 そして、翡翠の紋章を
 手に入れることが、
 騎士にとっての、憧れであった。

「あの子、白魔導士なのかなぁ。
 全身真っ白だった。」

「だから、どうしたっていうのよ。
 試験始まるよ。」

 行列に並んで、エントリーする受付の
 自分の番を待っている中の
 一瞬の出来事だった。

「なぁなぁ、スカーレット。
 そういや、翡翠の噂って
 知ってるか?」

「え、なんだっけ。
 確か、昇格試験にすべてランク
 合格して
 最後の紋章を手に入れられるって
 いう話?」

「それそれ。翡翠で出来てるんだってさ。
 その紋章がね。」

「だから?」

「その翡翠って、何でも願いが叶う
 って言われてるらしいのよ。
 紋章そのものじゃなくて、
 翡翠がね。
 例えば、
 不老長寿とか、
 地位、名声、金とか?」

「うそ、うそ。
 絶対欲しい。
 紋章手に入ったら、願い叶うの?」

「噂では聞いたことないから
 わからないけど、
 このメンフェリアの象徴らしいから
 たった1人にしか、
 持たせないらしい。
 優秀な騎士ってことだよね。」
 
「え、今って、どの人?
 どこにいるの?」

「あそこ。陛下の真後ろにきっちり
 ボディーガードしてる。」

「その願いが叶ったかは
 誰も知らないけどさ、
 あそこにいるだけで
 叶ったようなもんだよね。」


「確かに。
 ……よし、私も頑張ろう。
 あのポジション。」

「スカーレット?
 紋章なくても翡翠があれば
 叶うこともできるんだよ?」

「あ、そっか。
 でも、目指すべきところは
 あそこだから。
 フィンレーもね、やるんだよ?」

 バシッと背中をたたかれた。
 鎧が直で当たって痛かった。

「いったぁ…。」

「あ、ごめんごめん。」

 スカーレットとフィンレーは、
 ブロードソードを
 背負いなおして、姿勢を整えた。


 一方、そのころ。

 肩がぶつかった女は、息を荒くさせて、
 城下町を出て、太い幹の影に隠れて、
 荷物を確認した。

「ちゃんと、入ってるかな……。」

 ごそごそと、
 茶色のショルダーバックを探った。

  手の中に入ったのは、
  翡翠で出来た騎士の紋章だった。
 
 「よかった。
  誰にも盗まれていない。」

  貴重なもので、盗まれても
  おかしくない。
  彼女も噂で広まっていた
  翡翠があれば、
  願いが叶うという話を聞いていた。
 
 「これがあれば、きっと…。」

  ぎゅっと握りしめ、
 バックの中に静かに入れた。

  東の方角へだだ広い草原を
 ひたすら一人走っていく。