(……仕方ない)

 この後パトリシアを自白させるまでが計画なのに、そのことをすっかり頭の隅に追いやってしまったエイミーを当初の予定に引き戻すにはこの方法しかなかった。

 ライオネルはこほんと咳ばらいを一つして、蒼白なパトリシアに向かって言った。

「エイミーの言う通り、俺とエイミーは想いあっている。婚約を解消する予定はないから、スケール伯爵令嬢の推理した逆恨みの可能性は皆無だ」

「殿下大好き!」

「あー、わかった、わかったからエイミー……計画通りにしろ」

 エイミーの耳元で小声でささやけば、エイミーはそこでようやく思い出したのか、慌ててパトリシアに向き直る。

 エイミーが犯人をパトリシアだと推測したあとで、パトリシアの背後に仲間がいるのかはすでに調査を終えていた。結果は単独犯。つまりここでパトリシアを断罪したところで問題はない。

「わたしが学園に入学してから、植木鉢やテニスボール、花瓶や石膏像などなどいろんなものが頭上から降って来ていましたが、それもパトリシア様の仕業ですよね?」

「な――」

「ああ、すでに追跡と、それから証拠も集めているので誤魔化しても無駄ですけど……簡単に白状してくれないだろうとは思っています。だから……」

 エイミーがウォルターを振り向けば、ウォルターが学園に追跡魔術を仕掛けてくれていた魔術師を呼んだ。それと同時に、パトリシアを魔法騎士たちが取り囲む。

「昨日の夜、玄関に一つ、パトリシア様は罠の魔術をかけましたよね? たぶん、今日わたしが引っかかることを想定していたんでしょうけど、今日はわざと罠の魔術に引っかからずにそのままにしてあるんです。まだ罠は回収されていません。つまり、今からわたしが玄関の罠の魔術にかかって、そのときに追跡魔術の反応がパトリシア様に出れば確実です。今から一緒に玄関に行きましょうか。そして、パトリシア様だけを開いている教室のどこかに隔離させていただきますね。魔術が発動した際に、追跡魔術がパトリシア様しかいないその教室を指せば、パトリシア様が犯人と言うことで確定です」

 エイミーが「行きましょう」と言って、ライオネルの腕を引いた。

 けれども舞台から降りる前に、パトリシアが悔しそうな声を絞り出す。

「……必要ありませんわ」

 ――パトリシアはうなだれて、それ以上、何も言わなかった。