王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~

(わかんなかったかしら?)

 どうやらうまく説明できなかったようだ。

 ライオネルはピアノが大好きだから、その大好きなピアノをエイミーが奪ってはダメだと思ったのだ。

 エイミーはどうも昔から楽器の才能があるようで、音楽を教えてくれていた家庭教師からも「本当に、歌以外は最高です」とよくわからない褒め方をされていた。歌だって得意なのにどうしてか音楽教師から歌を教えてもらえなかったエイミーだったが、他の楽器については教師がとても熱心に指導してくれていたのだ。

 その中で、エイミーが教師から強く勧められたのはピアノだった。しかし当時すでにライオネルがピアノに熱中していたことを知っていたエイミーはそれを断り、ヴァイオリンを選んだのだ。だって、ライオネルが大好きなピアノで彼の上を行くわけにはいかないから。でも、彼が好きなピアノで適当なことをやったらライオネルが怒るとも思った。だからヴァイオリンにしたのだ。これならばいくら上手になってもライオネルを傷つけないし、手を抜かなくていいから彼を怒らせることもない。

 もしそれをライオネルに言ったら、「また意味のわからない理屈を……」とあきれるかもしれないが、エイミーのこれは、たぶん的を射ている。

(殿下はとっても優しくて大好きだけど、拗ねると口をきいてくれなくなるもん)

 ライオネルに嫌われたくないエイミーは、もちろん本気で彼が機嫌を損ねることはしたくなかったのだ。

 それを言えばライオネルを追いかけまわすこともやめればよかったのだが、これについてはエイミーは別の理屈で動いていたのだから仕方がない。

 良くも悪くも、ライオネルに「モモンガ」と言われるエイミーは、思考回路が人と違う方向に転がるときがあるのである。
 エイミーのいる舞台袖からはライオネルの後姿しか見えない。しかし、ピアノの上に、ちょこんとエイミーが渡した陶器人形が置かれているのを見てエイミーは嬉しくなった。肌身離さず持っていてくださいねとお願いしたことを実行してくれているのだ。