「殿下ぁ~~~~~~‼」

 調子っぱずれな歌声のような声が響いてきたかと思うと、校舎の影から猛然と一人の令嬢が走って来た。

 ふわふわと風になびく金色の髪、今の時期――五月のさわやかな空と同じ青い瞳。小さな顔に大きな瞳。クルスデイル国の国獣モモンガのような愛らしいカニング侯爵令嬢エイミーは、外見の愛らしさからは想像できないほどの勢いでどーんとライオネルに突撃すると、そのまま両手両足を使ってひしっと彼に抱き着いた。

「~~~~~~っ」

 ライオネルは言葉にならない悲鳴を上げて、そのままちゅーっと顔を寄せてくるエイミーの顔面を片手で押しのけた。

「どうしてお前はどこにでも湧いて出てくるんだ‼ まさか黒い害虫のように何千何万と増殖しているんじゃなかろうな⁉」

「うむむむむ……! ぷはっ! 嫌ですわ殿下、わたしまだ分身の魔術は習得しておりません」

「そんな魔術は古今東西探したところでどこにもないわ‼」

 貴族の通うフリージア学園は、魔術学校だ。

 貴族の子女は魔力を持って生まれることが多く、そんな彼らに魔術の使い方と危険性を学ばせるために存在しているのがこの学園なのである。

 きちんと魔術が何たるかを学ばなければ、傲慢な貴族の中には魔術で他人をいたぶろうとする輩が現れる。魔術による他者への暴力を防止し、そしてノブレス・オブリージュを学ばせるために四十年前の国王が設立したのがこの学園だった。