エイミーがこうなったのは、風邪を引いた翌日からのことだった。

 学園ですれ違っても「おはようございます」「こんにちは」と挨拶をするくらいで飛びついてこない。いつもの理解できないモモンガ語もしばらく聞いていなかった。今のエイミーはどこからどう見ても普通の人間――普通の令嬢だ。うるさくない、奇天烈じゃない、しつこくない。抱き着いても来ないし、匂いも嗅がないし、隙あらば唇を狙って来ようともしない。

(いや……普通の令嬢ではないな)

 エイミーの所作はその辺の貴族令嬢の何倍も美しいし、発音にも変な癖は一つもない。

 貴族令嬢の見本のような「ご令嬢」。王太子の婚約者はかくあるべきと、誰もが思うだろう完璧さ。

 追いかけまわされなくなって万々歳のはずなのに、何故だろう、何故――こんなにももやもやするのか。