王子様を落とし穴に落としたら婚約者になりました ~迷惑がられているみたいですが、私あきらめませんから!~

 少し甘いシャボンの香りを嗅ぎながら、エイミーは目を閉じる。

 薔薇に蜂蜜を混ぜたようなこの香りは、エイミーが二番目に好きな香りだ。

 一番目は、シトラスミントのライオネルの香り。

 ライオネルと婚約してから、彼に無視されるのが嫌で追いかけまわした。

 無視されるより面と向かって嫌いだと怒ってくれた方が、エイミーには何倍もましだと思えたから。

 でも――

(これ以上は、ダメなのかしら?)

 これ以上追いかけまわしたら、「嫌い」が「もっと嫌い」になってしまうのだろうか。

 真顔で――冷ややかな顔で「嫌い」だと宣言されるほどに、エイミーはライオネルを追い詰めてしまったのだろうか。

(これ以上嫌われるのなら……昔みたいに、無視されていたほうがましなのかしら?)

 何の関心も示してもらえず、視線も合わせてもらえない。

 そんな関係の方が、「嫌い」が「もっと嫌い」に、そして取り返しがつかないほどに「大嫌い」に変わってしまうよりも、ずっとましなのかもしれない。

「今日は旦那様も奥様も、パトリック様も外食ですから、夕食はお嬢様の好きなものばかりですよ。だからそれを食べて元気を出してください」

「……うん」

 返事をしながら、エイミーは、口の中で「もう無理なのかな」と小さく小さくつぶやいた。