突然の八重の申し出に、明緋は驚いて何度も瞬きしていた。


「連れ出す……?」

「初対面のあなたにこんなことを頼むのはおかしいことはわかっています。でもっ、少しだけでもいいのです。
1時間だけでもいい、あなたの時間をわたくしにいただけませんか?」


 八重は真剣な眼差しで明緋を見つめる。
 ほんの少しでも自分の我儘に付き合ってもらえるのなら。
 この窮屈な監視下から抜け出したい。自由にこの旅行を楽しみたいと思ってしまった。


「……なんて、無茶苦茶なことを言ってすみません」


 だが八重は明緋から一歩退がり、深々と頭を下げた。


「初対面なのに不躾で無礼なお願いをしてしまいました。あなたにはあなたの時間があるというのに、とんだ世迷言を言ってしまいました。
忘れてくださいませ」


 勢いで喋ってしまったが、すぐに我に返る。
 修学旅行で来ているのなら、彼にも待っている友人がいるはずだ。一方的すぎたと反省する。


「すみません、わたくしは戻ります。先程はありがとうございました」


 丁寧にもう一度お辞儀し、立ち去ろうとした。


「待てよ!」


 しかし、明緋は去り行く八重を引き止める。


「八重って言ったよな?俺で良ければ、あんたに時間くれてもいいけど」