「いえ、あの方々は……」


 その時、八重の中であることを思いついた。
 初対面の相手に頼むことではないとはわかっている。片時だけでもいい、自由な時間が欲しいと思った。


「わたくしの名は、満咲八重と申します」

「俺は寒田(かんだ)明緋(あけひ)。横浜の彼岸(ひがん)高校の2年だ」

「あなたも修学旅行生ですの?」

「そうだな」

「わたくしは東京の東桜(とうおう)高校2年です。同じく修学旅行で来ております」

「東桜ってすげー偏差値高いとこか!?」

「まあ、そうですわね」

「お前その喋り方といい、かなりのお嬢様か?」

「否定はしませんわ」


 明緋は目をパチクリさせていた。厳つい見た目とは裏腹に、感情が表情に出やすいらしい。


「マジかよ。だからあいつらに狙われてたのか?」

「狙われていたというより、監視をされているのです」


 八重は簡単に事情を説明し、父の言いつけで修学旅行だというのにボディガードの監視下にあることを話した。てっきり見知らぬ人物に拉致されたと思っていた明緋は、いきなり殴りかかってしまったことを慌てて詫びる。


「すまねえ!知り合いだったんだな……」

「いえ、むしろあの場であなたが現れたことは、わたくしにとって幸運だと思っています」

「え?」


 そう、このハプニングは八重にとっての幸運だった。


「明緋さん、お願いです。わたくしのことを連れ出していただけませんか?」